「重度・重複障がい児の発達と学習(明治図書)」という著書は、重度・重複障がい児の学習と指導法に関する基本的な知識と技能を身につけようとしている先生方ために執筆されています。 重度・重複障がい児を理解するための基本的な視点として、「重度・重複障がい児の発達と学習〜姿勢、感覚と運動、体の部分の役割〜」という1章をもうけています。また、「教材の製作と活用法」や「パソコン入力装置の制作と教材作成」について独自の章をもうけ解説しています。指導の実際では、9事例取り上げ、個々の子どもの実態に即した指導法について説明しています。 |
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重度・重複障がい児の発達と学習 |
重度・重複障がい児の発達と学習について考える第一歩は、彼らがどのように外界を取り入れ行動を自発し調整しているかを理解するこである。 そのためには、彼らの行動の原則・原理を理解する必要がある。われわれ自身も自らの行動の原則、原理を有しているので、その観点から彼らの行動を理解することになり、彼らの実態のとらえ方もわれわれの観点から理解することになる。 われわれが彼らを障害児として捉えれば、彼らはさまざまな障害を有することになり、彼らは無反応、無表情、無関心などと呼ばれれる子供になる。 彼らは障害児であるよりも、「人間」である。パスカル(哲学者)が言うように、人間は考える葦である。 したがって、彼らが何をどのように考えているかをわれわれが知ることから彼らとの関わりが始まる。われわれにとって奇妙に見える行動も彼らにとっては十分深い意味を持っているのである。 さらに、感覚と運動、姿勢(仰向け、横向き、座位)、体の部分とその役割など、どれを取ってもきちんとした深い意味があるので、その意味をわれわれは彼らから学び、人間行動の成り立ちを解明することが彼らの発達と学習を促すことになる。 |
1.感覚と運動 |
人間の感覚をいくつに分けるかは議論のあるところであるが、とりあえず触覚、視覚、聴覚、重さを感じる感覚の4つの感覚を考えることにする。嗅覚、嗅覚も障害児の問題を考える時、大切な感覚であるが、現時点でその行動的な大切さが十分理解できないので、とりあえず今回は議論の対象とはしない。 重さを感じる感覚は通常特別の感覚として取り上げないのであるが、重度・重複障害児の教育を考える上では大切な感覚であるので、ここではそれを含めて感覚として考える。 人間の感覚には生理的な感覚とヒトとしての感覚がある。 視力(見る力)があれば、形や実物を見ることができるかという問題は、心理学の領域では開眼手術者を対象に研究されてきている。 その研究を通して、目の前にものがあれば、それが必然的にわれわれの知覚としてそのものが現れるのはなく、われわれの外界を捉える認知的な枠組みを通してそのものがものとして現れるということが明らかになった。 聴力と聴覚の関係も同様である。手の操作もそれをを支える認知的な枠組みによって手の使い方が多様なものとなる。 生理学的な感覚(見る力、聞く力、触る能力)があってもそれだけではヒトとしての感覚とはならない。ヒトとしての感覚は、それなりの十分な学習の積み重ねがあって初めて育ってくるものである。 各種障害児でまず問題になるのは、初期の感覚の使い方であり、感覚と運動の調整力の高次化である。その代表的なものは、目と手の協応である。 目と手の協応といってもすぐにそれが実現できるわけではない。 それには段階がある。最初目と手はバラバラの動きを示す。手でものに触れているときは手元をみない。 目で玩具を見ているときは手は動かない。 次に手が動くと手元に視線が行くというように手の動きを追従する目の動きが出現する。その次には手を動かすと同時に目が動き、いわゆる目と手の動きが同期する時期が出現する。 最後に目で見て手を動かすというように目が手の動きの先に出現する。目で予測をt立て手の動きをコントロールする。 また、感覚も受動的な感覚ではなく能動的な感覚の活用が外界を知る上で大切になる。例えば、視覚であれば、探し、見つけ、見つめ、見比べる、さらに見比べたものを手や足で確かめるということである。 このような能動的な視覚の活動をとおしてまとまりのある視空間が形成される。かたちを基礎として外界を視覚的に構成し記号を操作する基礎ができる。 |
2.姿勢 |
姿勢の問題は、姿勢が悪い良いなど言われるように、姿勢自体が問題とされることが一般的である。 実は重度・重複障害児の問題を検討するときは、まず姿勢と外界との関係、あるいは、姿勢と感覚の活用について考える必要がある。外界との関係から姿勢はあお向け、横向き、前起し、座位の4つに分けられる。 寝たっきりの重度・重複障害児の姿の典型は目を閉じ手を曲げ指を軽く閉じ足を屈曲させたあお向けの姿勢である。 手にものを握らせようとしてもすぐに落としてしまう。玩具を見せようとしても見ようとしない。 音を聞かせてもそちらを向くことはない。これが障害の重い重度・重複障害児の実態である。 しかし、前面よりも背面、背中を中心とした触覚には敏感に反応する。 彼らはあお向けで背中を床面に押しつけ床面から伝わってくる触覚を積極的に受容しわずかな(われわれの目に見えないような)運動を起している。 その証拠に子供たちが足で踏んで遊ぶメロリィ・ステップを彼らの背中や腰の下に置けば、彼らの背中や腰のわずかな動きに対応して音がなる。 さらにもっと積極的な子供たちの中には背中を反らして背中を床面押しつける子供もいる。 抱き上げると背中を反らす、そういう子供たちは、口に触れられると嫌がる、玩具を見ないなど、前面からの刺激を受容する態勢ができていない。前面からの刺激の受容の仲立ちするのが足である。 足は体の部分から言えば、前とも後ろとも決定しがたい体の部分である。足で床面をけることもあるが、床面の玩具をけることもある。それは前と後ろの中間的な空間にある玩具をけることになる。 背中から足への刺激受容の変化は口の動きを活発化させ、より前面からの刺激の受容を高めることになる。 前面の刺激受容の高次化に伴って手で操作する操作面が必要となる。その姿勢は横向きである。頭を前屈させ背中を前方の曲げ足は屈曲させる、そういう横向きの姿勢が出現する。手を伸ばした位置に視線が向き、目と手の協応、目で見ながら操作することが可能になる。 机座位の姿勢を取らせると、机上にうつ伏せにになる。両手で床面を押しつけ、上体を起こそうとする動きが出現する。このとき、背中、あるいは、後頭部に対して触覚的な刺激を与えると、上体を起こす動きが出現する。いわゆる、上体を反らす動きである。 また、後頭部や肩に重さを感じれる素材(平らな木片など)を重さに対応して上体を起こす動きが出現する。これが前起こしの姿勢である。 最後に、机座位姿勢でものを操作するときの姿勢がある。足は床面を踏みつけ上体を起こし前後・左右のバランスを調節する。この足の働きを通して手の操作が豊かになる。もちろん、手の操作に目が参加する。 |
3.体の部分とその役割 |
われわれは目は見るもの、手は操作するもの、足は歩くものなどと、体の部分を固定化して考えているが、最初からそのように体の部分の役割が決められているわけではない。 あお向けの姿勢のとき、手よりも足を使って探索したり操作したりしている。そのとき、手は足の活動を補足するためにバランスを取る役割を担う。横向きの姿勢になれば、前方に床面が出現しその面上のものを目で見て手で触れる、握れるものであれば、口に触れ手で振るなど、ものを操作しそのものの性質を理解するようになる。 足は屈曲させバランスを取り手の役割を補佐する役割を担う。机座位の姿勢では、手は机上の面に押しつけ上体を支える、バランスを取って上体の安定を図る、手で操作するという段階で手の役割が変化する。 足は上体を起こすために床面に押しつける役割を担うようになる。以上のような段階を経て体の部分の役割が変化していく。 上記の視点を念頭において重度・重複障害児の教育実践を行えば、その実践は実り豊かなものになる。 |