障害児教育進研究室




障がい児の学習は、初期学習→概念行動形成の学習→記号操作の基礎学習→記号操作の学習(文字や数の学習)→国語・算数などの教科学習という学習の段階をえて進んでいきます。学習は、子どもとの信号のやりとり、いわゆるコミュニケーションを通して進めていきます。コミュケーションを基礎にしながら、学習を段階的・系統的に進めていきます。


目次
重複障がい児の学習の内容と方法
身振りサインの原則
盲聾児の身振りサイン
感覚と学習
障がい児の学習と内容





1.重複障がい児の学習の内容と方法(「文部省 盲児の感覚と学習」より引用)
初期第1段階 「歩くこと」
ア 移動の自由
イ 手の運動の自由
概念行動およびコミュニケーションの前段階
初期第2段階 「身振りサイン法による日常生活の基本的習慣づけ」 コミュニケーションのはじまり
基礎第1段階 「触運動を統制すること」
ア 生得行動から概念行動へ
イ 概念行動から初歩的概念行動へ
概念行動のはじまり
基礎第1段階 「触空間の再構成」
ア 触覚的体験を基礎とした音声言語の確立
イ 文字言語の基礎学習
言語行動のはじまり


2.身振りサインの5原則
ことばのない子どもは、身振りサインによる日常生活の習慣づけも大切です。
身振りサインを使用するときの原則
@サインは統一されなくてはならない。
Aサインに対する行動はすぐにとれるようにする。
B制止(禁止)のサインを与えた場合はすぐに次のサインを与える。
Cサインの裏づけとなる要求(必要性)の強いものを与えるようにする。
Dサイン以外に気ままに盲聾児のからだに触れないようにする(子どもが混乱するようなサインの出し方をしない)。
以上は、盲聾児研究会で作成したサインの5原則です。他の障がい児にも共通して使える原則だと思います。


3.盲聾児の身振りサイン(「文部省 重複障害児の教育の手びき」より引用)
山梨県立盲学校で盲聾児に使用した身振りサインの例
日常生活の基本的習慣づけをする過程で、用便、食事その他の行動と結びつけ、直接体に触れる身振りサインを使用。
@歩行…促すときは、うしから平手で押す。止めるときは、前から平手で押さえる。単独歩行のとき、人差指を握って促す。付添え歩行のとき、親指を除く4指を平らにもって2・3度上下に振って促す。
A食事…口を平手で2、3度たたく。
B用便…大便のときは臀部をたたき、小便のときは下腹部をたたく。
C洗面…顔に両手を当ててこする。
D就寝…両手を合わせて耳元に当てる。
E頂戴…両手の平を重ねて前に出す。
F終わり…手の平を合わせて2,3度こする。
G静止…手の甲をたたく。
Hほめる…頭をなでる。
これらの触覚を中心とした身振りサインは、他の障がい児に有効です。
一般的に視聴覚を中心とした教育を考える傾向がありますが、触覚および目や手の使用を中心とした教育の道筋を組み立てる方が子どもにとって理解のしやすい学習になります。


4.感覚の学習
感覚の学習は、感覚の使い方や手の動かし方が高次化することです。それは、初期学習でもありますが、初期学習の基本は、感覚の使い方、手の動かし方の高次化にあります。特に、触覚、触運動のコントロールが大切です。触運動をコントロールすることができれば、目の使い方もコントロールできるようになります。

感覚には、生理的な感覚とヒトとしての感覚(学習を通して獲得する高次な感覚)があります。        
感覚 生理学的な感覚(受動的、受け身的な感覚の使い方) ヒトとしての感覚の使い方(能動的な、主体的な感覚の使い方)
視覚 見える(視力:見る力) 視る(視力を活用して外界の刺激を積極的、能動的に取り入れ、処理する力)
聴覚 聞こえる(聴力:聞く力) 聞く(聴覚を活用して外界の刺激を積極的、能動的に取り入れ、処理する力)
触覚 触る(積極的に手を動かして外界の刺激を積極的、能動的に取り入れ、処理する力)

感覚の使い方が高まること(感覚の高次化)
視覚:ちらっと見る→見続ける→注視する→追視する→見比べる→確かめるという目の使い方の高次化。
触覚:触れる→持つ→輪郭線をなぞる→触っているものを見る→触って比較する→触って確かめるという触覚の高次化。

目の使い方が上手になるということは、見たものを他のものと比較する・分類する・並べる(比較・分類・並列)、あるいは、実際のものや経験したことを覚えておく(概念化・記憶=知識)、さらに実際のものがなくてもそれがあるかのごとく取り扱って行動する(記号操作的な行動=思考)などへと行動のレベルが高まることであります。
特に、比較・分類・関係づけは、概念行動の基礎であり、ことばの基礎であります。


5.障がい児の学習と内容
手を使う、道具を使用する、ことばを話す、計算をする、日常生活の基本的な習慣を確立するなど、人間行動にはそれができあがる道筋があります。

人間の基礎としての学習は、以下の通りです。

@初期の行動の自発と学習
触覚、聴覚、視覚などの感覚を活用して、初期の行動を自発し、外界へ積極的に働きかけていくための学習:主として体を起こし手を使うようになるまでの学習。

A初期学習
感覚を活用して外界刺激の受容の高次化をはかり、その高次化をもとにして外界へ積極的に働きかけていくための運動の自発とその統制の学習:目と手の協応の学習など。

B概念行動形成の学習
外界に設定された課題を十分に納得して、その操作的解決のため予測し、探索し、新しい運動の組み立て、行動の終了ととに確認が起こってひとまとまりとなる概念行動の確立の学習:位置、形、ものの属性など。

C記号操作の基礎学習
外界の位置・方向・順序によって構成し、それに基づいて自由に枠組みを変換し、記号操作の基礎をする学習

D記号操作の学習
文字・数の学習など